第3章 多彩な調理冷凍食品
第1章では調理冷凍食品の変遷について戦後生まれの商品から最近の電子レンジに対応した商品、自然解凍可能な商品までその歴史を俯瞰した(図1.9)。また第2章では水産・畜産・農産素材とそれらを利用した冷凍食品について紹介した。第3章では各種の調理冷凍食品の中から、ロングセラーとなっている「コロッケ」、「餃子」、また冷凍食品の傑作と称えられた「いか天ぷら」、また主食系冷凍食品として「炒飯」「おにぎり」「うどん」の製法を示しながら、おいしい調理冷凍食品に仕上げるための最新の技を紹介しましょう。表3.1にはこれらの種類を示した。
表3.1 調理冷凍食品の種類と定義 2015消費者庁 | |
調理冷凍食品とは、農林畜産水産物を原材料とし、選別、洗浄、不可食部の除去、整形等の前処理及び調味、成形、加熱等の調理を行ったものを凍結し、包装し、及び凍結したまま保持したものであって、簡便な調理をし、又はしないで食用に供されるものをいう。 | |
フライ類 | 1.調理冷凍食品のうち、農林畜水産物をフライ種としこれに衣をつけたもの。 |
2.上記を食用油で揚げたもの。 | |
(例) 魚フライ(アジ、ホキ等) えびフライ、いかフライ、かきフライ | |
(例) コロッケ(ポテト、クリーム等) | |
(例) カツ(豚かつ、ビーフカツ等) | |
(例)てんぷら、空揚げ、フリッター等(パン粉等を使わないものの表示) | |
焼売、餃子春巻 |
1.あんに包み成形したもの。 |
2.上記を加熱処理したもの。 | |
ハンバーグ、 ミートボール | 1.食肉を細断などをし野菜などを加え、混合成形したもの。 |
2.上記を加熱したもの | |
3.上記にソースまたは具を加えたのの。 | |
(例)1種の原料使用のものは品名の次に(牛肉)、(豚肉)等と表示する。 | |
フィッシュバーグ、 フィッシュボール |
1.魚肉を細断などをし食肉、野菜などを加え混合成形したもの。 |
2.上記を加熱処理したもの | |
3.上記にソースまたは具を加えたのの。 | |
(例)1種の原料使用のものは品目の次に(えび)、(かに)等と表示する。 | |
米飯類 | 1.精米などを炊くなどしたもの。 |
2.上記の加熱処理前後に具材などを加えて調味したもの。 | |
(例)米飯、炒飯、ピラフ ひやむぎ おにぎり | |
麺類 | 1.小麦粉またはそば粉を主原料とし製麺し、茹でるなどの加熱処理したもの。 |
(例)うどん そば | |
2.上記を味付け、もしくは具材を加えて調理したもの、または調味料もしくはかやくを添付したもの。 | |
(例)焼きそば 焼うどん ちゃんぽん麺 スパゲッティ | |
(例)調味調理したものについては品名の次に「調理済み」と表示する。 |
調理冷凍食品のオリジナルは家庭料理や外食の人気メニューからヒントを得たものが圧倒的に多い。おいしいがいざ作るとなると煩雑なてんぷらや茶わん蒸しなどの家庭の料理、中華街で食べたあのぱらぱらとしたなかにもしっとりした味わいの炒飯やパリパリの皮に包まれた肉汁いっぱいの餃子、フレンチやイタリアンの香り豊かで濃厚なグラタンやスパゲッティなど多数商品化されている。
世の中に創作料理は多いが、全く新規なメニューの開発はあるのだろうか。素材と素材、素材と調味料のマッチング、揚げる・焼く・煮る・蒸すなど加熱調理の仕方、完成までのプロセスを見ると、それら組み合わせのマトリックスから、自ずと伝統や習慣の枠内に収まっている。昔から試行錯誤を繰り返し、現在の洗練されたメニューと食事とが出来上がっているからともいえる。
現在の新商品開発においても同様、基本メニューをマイナーチエンジして目先を変える、過去の抽斗からそろそろ再登場させるのだが、その際有名シェフに監修してもらうなどというのが一般的な手法となっている。基本を外れたメニューの開発にはリスクが大きい。
もうひとつの開発動機は、家庭で作るとなるとできないことはないが面倒で、時間もない、それに台所が汚れる、そのような調理品の冷凍食品化であろう。煮魚や和惣菜、フライやてんぷら、下ごしらえが面倒なアジフライが該当しよう。それを冷凍食品に置き換えただけでも十分商品性が期待できるところにエントリーの容易さがあろう。その際、「買い置きができる」、「手間が省ける」、「無駄が出ない」が冷食利用の動機とはいえ、「おいしい」、「メニューが豊富」も評価される点である。
毎シーズン、メーカーが競って新商品を市場に投入してくる。独自性はあるが独創性に乏しく、オリジナリティーを出すことは本当に難しい。その結果、同じ分野で激しいシェア争いをせざるを得ない。
とりわけ、食事における冷凍食品の立ち位置は難しい。家庭の食卓においては、「また冷食か」とか「今晩も冷食でごめんなさい」と、なかなかメインディッシュとして扱ってもらえず、サイドメニューとしての評価に甘んじている雰囲気から抜け出せないでいる。このような不当に低い評価のため、セカンドデッシュとして商品を磨いていかざるを得ない。
とはいえ、コロッケ類、豚カツ類の国内生産は21万トン、これに海外からの輸入品白身魚フライや鶏から揚げ20万トンを加えると、国内市場には約40万トンの「フライ食品」が供給されている。やはり、調理冷凍食品といえばフライもののイメージは強く、冷凍フライ食品はメインディッシュに認知されてきたようだ
(1)フライ食品
かつて5大冷凍食品といえば、焼売、餃子、ハンバーグ、コロッケ、エビフライであり、これだけで調理冷凍食品の売上金額の3/4を占めていた。コロッケは未だ首位の座を明け渡さない怪物商品となっているほか、ハンバーグも第2位と健闘している。普段から食べたい・使いたい冷凍食品というものがイメージできる。てんぷらやフライ、餃子はなるほど大人も子供も食べやすく当たり外れのない商品である。温かいうちに食べることが基本なので家庭の雰囲気にもよくマッチしていて、電子レンジやオーブンレンジで温めるだけでよいフライ食品の開発もそれを後押ししている。
コロッケ
コロッケは豚カツ、カレーライスとともに大正時代に普及して以来、現在でも日本独特の洋食として人気がある。ポテトコロッケの製法を図3.1に示した。玉ねぎ、肉、馬鈴薯を下処理して混合成型し、溶き小麦粉と油脂を乳化させたバッターをつけ、次いでパン粉をまぶして凍結し、包装容器に入れ冷凍保存する。ほぼ家庭で作るコロッケと同じ工程で分かりやすい。
しかし、こだわりの商品を作ろうとすればそれなりの工夫が要る。馬鈴薯の数多い品種の中では「男爵」がコロッケに好適。「メークイン」はポテトチップス用、「北海コガネ」はフライドポテト向き、など原料の水分やデンプン量の多寡によって用途が異なる。
バッター用の小麦粉には薄力粉が用いられる。バッターの液温は8℃以下に維持し、付着量の一定化と細菌繁殖の防止を図る。パン粉も同様温度管理を徹底し細菌繁殖を抑える。また、衣(バッターとパン粉を併せた)の付着比率は30%以下と規定されているので、予め試作によって確認しておくことが必要となる。
上記の形態のほかに、油で揚げた加熱済冷凍食品もある。図3.1の工程では中たねがすでに加熱調理されているので、パン粉付けしたものを180℃で1~2分表面だけ油煠すればよい。未加熱製品の場合は3~4分の加熱が必要となる。
消費者が電子レンジで加熱する場合に、電磁波が均一に当たりむらなく加熱されやすい形状に成型する、またオーブンレンジ加熱を想定して、表面が焦げないように薄めにまた小さめに成型するなどの工夫がある。
フライ類は油を多く含むのではないかという消費者の疑念に応えるために、パン粉の性質を変えて吸油しにくい商品を開発し、摂取カロリーの低減化を図るなど、健康を訴求した商品も販売されている。
天ぷら
家庭における調理が難しいもののひとつにてんぷらがある。とりわけ、いかてんぷらの調理時には、表皮を付けたままだと肉中の水分が揚げ油の中で突沸し、思わぬやけどをする危険性がある。そうかといっても皮を剥いだりするのは煩雑なため、淡白な肉味が衣の油と絡まって特別においしいのだが、敬遠される料理となっている。この種の商品を開発する意義は大きい。キスのてんぷら、えび天も専門の店でないとなかなかおいしいものはできず、やはり職人の技が必要なメニューだ。
市販されている「いか天」に使われるイカの種類はチリ、ペルー沖で漁獲されるアカイカの種類が多い。スルメイカの種類に比べ肉厚で、てんぷら用に適している。内臓を抜き開いて皮を機械で剥ぐ。これを短冊形の鹿の子に切れ目を入れて加熱時に反り返るのを防ぐ。打ち粉を付け、バッターミックスで衣をつける。いか天の特徴は、揚げたときに衣は花が咲いたように広がることである。そのためには、未加熱商品においては揚げ玉(天かす)を衣液の外側一面に付着させる、加熱によって膨張するゲル化剤を配合するなどの工夫がある。
またバッター付け後直ちに油揚げし衣を固めてしまう加熱済商品(プリフライ)にあっては、予め油中の型枠にバッターを注ぎ、半凝固させておき、この上に衣付けした種を載せる、また油煠しながら上から順次バッターを注いでいく、また揚げ油を撹拌して衣を散らすなどの苦心の技がある(図3.2)。
(2)炒焼食品
餃子
焼売、餃子、春巻といった中華系料理の冷凍食品化も成功した種類である。その後、炒飯、焼きそば、ちゃんぽん麺、肉まんなどの商品が続々市場に投入され、ショーケースも一層華やかになった。本場中国では、餃子は蒸す、茹でる、揚げる、焼くなどの調理法で作られるが、わが国における冷凍食品の場合焼き餃子が一般化している。もちろんラーメンとともに看板メニューとしている中華料理店も多い。
具材には豚肉を主としてキャベツ、ニラ、えびを使い、これにでんぷん、調味料、香辛料を加え、ミキサー混合して餡を作る。また、小麦粉、油脂、食塩と水とを基本に皮を作る。適度の保湿と食感の向上のためにでんぷん、米粉、糖類、グルテン、レシチンを配合する。混練してローラーでシートを作る。楕円形にカットした麺皮に具を充填し、ひだを付けながら成型する。プレス成型式の製法もある。蒸煮後予冷し、凍結する。購入者は焼いてから食べる。蒸したのち表面を焙焼してから商品化した焼き餃子もある。
開封せず包装のまま電子レンジ加熱すると、一部の細孔から蒸気を排気しつつ内部が蒸され、作りたて様の風味と食感が楽しめる電子レンジ対応品も開発された。
ハンバーグ
冷凍ハンバーグの主原料としては牛肉、豚肉、鶏肉が使われるが、その他どのようなものが原料として使われるのかは消費者庁食品表示基準を見るとよくわかる。すなわち冷凍ハンバーグステーキとは「食肉を挽肉にしたもの、またはこれに魚肉を細切り・すり潰したもの、もしくは臓器、可食部分を挽肉・細切りしたもの、もしくは肉様の組織を有する植物性タンパク質を加えたもの」であり、これに「タマネギなどの野菜のみじん切り、調味料、香辛料を加え混練り後、楕円形に成型したもの」と定義される。
また、「これを焙焼し、蒸煮し、または油などの加熱処理をしたもの」のほかに具またはソースを加えたもの」が製品化されている。既成の標準的な製法を基準に規格が制定された。
なお、ハンバーグ、ミートボール、餃子は冷凍食品のほかにチルド温度帯で冷蔵するチルド品も商品化されている。前2種についてはレトルトパック品も市販され、冷凍、チルド、レトルトまた缶詰など、消費者は多様な食事形態にあわせて商品を選択することができる。
炒飯・ピラフ・焼きおにぎり
表3.1に示したように白飯、炒飯、ピラフおよびおにぎりは冷凍米飯類に区分される。そのうち冷凍ピラフの製法を図3.3に示した。洗米を3~5升炊飯釜で連続的に炊飯し、蒸らしてから米飯を取り出す。釜離れやその後の混合を容易にするため、炊飯時に油脂を混合する。加熱調理した具材を均一に混ぜ合わせる。この際、米飯が練り合わされないようにドラム式混合機が用いられる23)。
炊飯米から焼きおにぎりを作る。醤油などで調味し一定形状に成型して焼成するか、もしくは予め素焼きにし、その後にたれを付けて本焼成する商品もある。
炒飯については中華料理店の調理法を取り入れ、鶏卵を米飯粒に絡める一次炒め、250℃以上の火力で炒める二次炒め、さらに強くかき混ぜながらの三次炒めする三段調理によって、本格的な風味に仕上げる製法も導入される。
具材を混合した米飯を凍結する際に重要なことは、飯粒がひとつひとつばらけた状態に仕上げることである。
そのために、液体窒素ガス噴霧方式、エアブラスト方式いずれの場合でも凍結時に、米飯を機械的にバラし、振動を加えほぐす方式が採用されている。
具材には各種の素材が加えられる。えびやかにを使ったもの、またあさり飯、たこ飯、ほたて飯、山菜ごはんなど郷土料理、赤飯やおかゆとメニューも多彩である。
またこれら商品は袋内に多量の空気を含むため輸送、販売時に温度変動しやすく袋内膨張の原因ともなるので、特に温度管理が必要である。
(3)冷凍麺
うどん
いつの頃からかうどんの食感が変わった。それまでの外食店やスタンド売りのうどんといえば、うちたての麺の持つシコシコ感は失せ、表面が伸びてべとついていた。製麺所で打ち、茹でて外食店に輸送し、それを販売する間に伸びてしまうからだ。この販売方式では喉ごしの悪さはどうしようもなかった。
本場の讃岐うどんはおいしい。打ち立てを提供するシステムができているからだ。この打ち立てを冷凍食品に仕立てることはできないか。ゆでたての麺の断面を見ると、表面水分は80%と高水分で、それに対し中心部は50%と低くやや硬めとなっている(図3.4)。このように外と中の水分にコントラストがあることで表面は滑らかでつるっとし、内部は構造化してしっかりとした食感を示す。ゆで麺を放っておくと内外の水分勾配が均一化し、伸びて独特のゆで麺構造が崩れてしまう。急速冷凍することでこの構造が維持できることが分かって以来、冷凍うどんは急速に消費者の支持を得て、今や冷凍食品の一番の売れ筋商品となり、米飯に代わる準主食の位置を占めるようになった。
日本各地にうどんの名産地がある。原料の小麦粉に水と食塩を加えてよく練ると、タンパク質グルテンが生成してくる。熟成や発酵などパンの製造時と同じ原理である。この生地の作り方で麺のコシの特徴が出る。図3.5に製造工程を示した。
グルテンの前駆体は小麦粉のタンパク質グリアジンとグルテニンであり、加水して何度も捏ねることで生地にグルテンの持つ粘弾性(コシ)が出てくる。加水量を増やすとグルテンが多くできるので、冷凍麺では多加水製法が採用される。うどんの製造にはタンパク質含量が8~9%の中力粉が使用される。また、食感の滑らかさ、粘弾性の改善のために、各種のデンプンを10~20%混合する場合もあり、それがそれぞれの商品特徴となっている。
生地を寝かせることで硬さがとれ、均一で滑らかさがでて程よい粘弾性のある生地となる。熟成とも言われる。その後、圧延ロールでグルテンの網目組織構造を縦方向にうどんの太さに伸ばし、細切りする。
次いで沸騰水中で茹でるが、pHを5~6に調整し、9割の茹で加減でとどめることが肝要である。茹であがった麺は水洗してぬめりを取り、5℃以下に冷却するとゆで麺に必要な伸長度と抗張力が増し、その後の麺同士のくっつきが防げる。
冷凍麺製造のポイントは、水冷・水切り後直ちに急速凍結することにある。通常は-40℃で約30分エアブラスト凍結する。水分勾配の維持のほかに、茹で工程でα化した小麦デンプンの老化を防ぎ、また茹で麺の氷結晶の大きさを微細にし、できるだけ凍結前の状態に復元する力を保つ。-20℃以下に保管して流通する。
冷凍ゆでめん解凍のポイントは、熱湯により急速解凍することにある。自然解凍や再凍結するとせっかくの釜揚げ直後の食感が失われることになる。
そば
うどんが冷凍できるなら、そばも冷凍可能であろう。冷凍そばの原料配合としては、そば粉30%、つなぎとして小麦粉(強力粉)70%、生地の補強材としてグルテン・卵白・山芋粉が1~2%、これに水を約30%加える。食塩は加えない。10~15分間混練し、これをロールに掛け麺帯を作る。うどんと異なり熟成はせず圧延し細断する。
そば粉は水溶性タンパク質が多いので茹で伸びしやすい。1~1.5分茹でて手早く冷水冷却して麺を引き締める。成型容器に盛り-40℃約30分急速凍結する。
うどんと異なりそばは特有の香りが保管中に抜けやすい。業務用としては広がりを見せているものの、この風味抜けがハンディキャップとなり、冷凍そばはなかなか家庭まで入ってこない。ゆで麺のほかに、茹でる前の生めん、またゆで麺を調理したうどん・中華そば・スパゲッティなどの各種の調理麺も冷凍食品として販売されている。
(4)自然解凍食品
2000年ごろから、加熱調理をしなくても室温で自然に解凍するだけで喫食可能な冷凍食品が増えている。「自然解凍調理冷凍食品」である。
日本冷凍食品協会によると、「一般家庭向けで、無加熱のまま摂取できる冷凍食品または冷凍食肉製品のうち、自然解凍での利用が可能で、お弁当用に開発された冷凍食品」のことという。
図3.6に示すような加熱せずに喫食できる冷凍食品には冷凍果実、大根おろしは勿論、冷凍ケーキ類、えだ豆のほかに、きんぴらなどの和惣菜、ハンバーグ、唐揚げなどの食肉調理品などがある。この定義では、これらのうち後二者が自然解凍調理冷凍食品として取り扱われることになった。それはお弁当のおかずというもう一つの縛りを課しているためである。
元来、無加熱摂取冷凍食品は、解凍後は加熱調理しないので細菌数が10万個/g以下の基準としているとはいえ、凍ったままお弁当のおかずとして弁当箱に入れ、常温で昼食まで放置して自然に解凍するのに任せ、時には熱い米飯とともに詰め合わせることをも想定すると、製品の初発細菌数はかなり厳しく管理されないと、細菌増殖の危険性はこのうえなく高まる。
したがって、細菌数が製品1g当たり10万個のハードルに加え、製品0.01g中の大腸菌群が陰性、というさらに一段高い基準を付け加えることによって、食の安全を守ろうという協会の自主基準である。
この厳しい基準をクリアするためにどのような製法がとられるのだろうか。第一に製造施設の清潔化、とりわけ加熱した製品を無菌的に包装することのできる包装設備及び包装作業をクリーンルーム内で行うなど設備が必要となろう。また、炒め、揚げるなど作業において確実に品温が85℃1分以上加熱され、調理後30分以内に15℃まで冷ますなど重要管理点を定めた品質管理、例えばHACCPシステムを導入することで安全を確保することが前提という。
自然解凍食品に適する食材はどのような種類なのかその条件は、①自然解凍しても解凍ドリップ(液汁)が極めて少ないこと②喫食時に食感が硬くならず、凍結前のおいしさを保っていることが必須の条件である。
そのためには、調理品の水分とりわけ自由水(P.103)を少なくすることが肝要であり、具体的には塩類・糖類を添加する、増粘剤等で自由水を吸収する、調理時の加熱や脱水により水分を飛ばす、いんげん・ニンジン・れんこんなど凍結耐性の高い素材を使うことなどの方法で対応している。
また、解凍中に調理品のでんぷんが老化し、食感を著しく損ねるので、例えば低でんぷんのフライ衣や改質でんぷんを使って改善することも有効である。また、調理品の急速凍結は不可欠であり、特にこの食品においては必須である。幸いなことに弁当のおかずは、一般に数gから十数gと少量の個食容器包装となっていて、急速凍結に適した形態となっていることも好条件である。
メニュー開発
自然解凍調理食品が開発された当初は、図3.7(Ⅰ)のように隠元、さつま芋、人参、筍、蓮根、ひじきといった比較的冷凍しても損傷の少ない素材を選んで調理加工した。しかし、その後(Ⅱ)に示すような中華系の料理が加入し、最近では(Ⅲ)のように食肉系のフライ類、スパゲッティやグラタンと、これに適した商品が続々と開発され、将来はほとんどの冷凍食品が無菌パック加工され、喫食時に加熱解凍してもよし、自然解凍してもよしというように、調理冷凍食品全般の品質向上のための先駆けになっているといってもよい。一般消費者からすれば、細菌の基準値は10万個でなく限りなく0レベルを期待しているのだから。
和惣菜
初期の商品には和惣菜が多い。図3.8には蓮根とニンジンをベースとした煮つけ、およびひじきとニンジンを炊き合わせえだ豆を飾りに盛り付けた商品を示した。根菜類は葉菜類に比べ水分が少なく繊維質が多く、冷凍しても食感など品質の低下は目立たない。つまり冷凍耐性が高い素材なのだ。砂糖を加えこれを炒めるなど加熱調理することで水分を飛ばして水分活性を下げ、同時に冷凍耐性を高める。10数gの小カップに盛り付ければ数十分で急速凍結されてしまう。調理食品の開発で培った技術を基に、消費者のニーズを忠実に商品化した、むしろオーソドックスな商品といえる。
フライ類
図3.9にはハンバーグとエビよせフライを示した。いずれも正規の冷凍食品よりかなりのミニサイズである。この程度の形状なら確実に急速冷凍が可能で、高品質な商品が期待できる。
さらにハンバーグの調理に際しては、高温短時間焼成を行って、表面を硬く仕上げ、解凍時のドリップ発生を抑制している。
えびよせフライの場合は、えびをすり身でしっかりと固定し、解凍ドリップの発生を抑えるほか、低デンプンの衣を付け老化を抑え、パン粉にも吸油しにくく、かつカリッとした食感が長持ちするための工夫がある。
通常の冷凍食品「鶏のから揚げ」や「むきえび」の製造の際は、鶏肉を柔らかな食感に仕上げるために、予め鶏肉やエビ肉を調味液に漬け込み処理をするが、自然解凍調理食品では、解凍時のドリップ軽減のため調味液の配合を若干変更している。
(5)調理冷凍食品の解凍
前節では自然解凍に適した調理冷凍食品について述べた。調理冷凍食品がすべて自然解凍用としてベターかというとそうではない。むしろそうではなく、急速に解凍した方がよいものが多い。図3.10には各種の調理冷凍食品に対して、失敗の少ないお薦めの解凍法を示した。
「冷凍食品てんぷら」や「フライ類」、であって油煠していない冷凍食品の場合、凍ったまま180℃程度に熱した油に直接投入して揚げる。プリフライした「餃子」の場合でも凍ったまま直接フライパンなどで焼く。逆に自然解凍すると、中種の水分が衣に移行し、カリッと仕上げるのは難しくなる。
炒飯やおにぎりではどうか。米飯デンプンの老化防止を考慮して、ボロボロしないでしっとりとした米飯の食感を維持するために、電子レンジなどで急速解凍する。自然解凍して老化したデンプンは再加熱すると再度α化して復元はするが、炊き立て、作りたての食感と香味はかなり失われる。
冷凍うどんや中華麺類においても、伸びないために凍ったまま直接沸騰水で茹で上げる。先述した農産冷凍食品の場合も同様、冷凍食品はなるべく速やかに解凍することが失敗の少ない解凍法であることが、近年消費者にもようやく認知されてきた。